2025年 7月作品 暦日下町

孝男  一幹  麻紗 篤樹  恵美子 佐恵子 龍之介 一穂 



◇道山 孝男

青空を広げて今日の山開き

 七月一日、北アルプスのウエストン祭なども山開きだが、

まるで青空と岳嶺が約束を交わしたような山日和を授かる

空はなお広く岳はなお高く感じる。岳人冥利につきる一日

の始まる。


◇萩庭 一幹

夏草や石垣緩ぶ見附跡

 江戸城の近くは、至る所見付け跡である。

石垣の間より夏草が蔓延る。『夏草』には何といっても芭蕉の

『夏草やつわものどもが夢の跡』

の句があり、私たちは、その後をなぞるしかない。


◇渋谷 麻紗

夾竹桃真鯉のおよぐ神田川

 神田川は江戸の上水路であり、江戸市中を貫く川である。

東京となった今でも、ほとんど、その経路は変わらない。椿山荘下の関口

芭蕉庵川岸の辺りは渓も深く真鯉が放し飼いにされている。当時の夢から覚めて、

夾竹桃が現実の世にひきもどす。


◇柳篤樹

月見草薄紅色に閉ぢて朝

 月見草は一日花というより一夜花である。

朝が月見草を眠らせたのだが、月見草が閉じて朝を

誘っている感覚の一句となった。

 一夜にして現世の夢を見て果てる、何とも

儚い花である。その生態を写しとった一句。


◇遠藤 恵美子

雲の峰うだつの町の虫籠窓

 藍商人の繁栄を今に伝える街並がある。恵美子さんの、

ご当地写真に載っていた。

梲と虫籠窓は豪商の証であった。風俗、文化

の史実は説得力がある。

『雲の峰町のうだつと虫籠窓』だと、また少し感じも変わるかと。


◇飯塚 佐恵子

月見草殖やして友の鄙住まひ

 月見草は、ひっそりと咲くことを好む花のように思われる。友もまた、

こころあたたかい控え目なひとなのだろう。

きっと、月見草に慕われたのかもしれない。


◇松尾 龍之介

梅雨深し史跡出島の屋根瓦

 長崎、出島の、ご当地作品、その土地の歴史と風俗を映した作品には

それだけで存在の良さがある。出島の瓦の色は何色? 

オランダ商館の瓦は蓬色だったとも。梅雨も深み、瓦の色も深みを増して

いたことだろうか。


◇世古 一穂

神主の声裏返る磯開き

 潮騒や海風に負けない声を張り上げるが、とうてい届かない。

磯開きの明るさと

開放感がある。海開きでない磯開きが、荒い波音と

と風音を引き立てる。ユーモラスで爛漫な情景をとらえた。